母のホームの部屋には、昔実家で母が使っていた花瓶があります。
今はここに置いて、実家の庭の花や、散歩で摘んできた道端の草花を飾り、
常に、何か生けて使っています。
きょう、私が花瓶の水を入れ替えようと、洗面所に持っていき洗っていたところ、
「ガチャン!」
手を滑らせて、洗面シンクに落としてしまいました。すると、
「割れた?」
と母の声。
すぐのタイミングで、聞き取り易い声で言ったのです。
それは、まるで、実家で暮らしていたときの、母の発する声のようで。
少し驚きました。
「どうやろう?見て」
くだけたりはしていないけれど、どこか欠けたかもしれません。
私は花瓶をベッドに寝ている母のところへ持っていき、
顔の前で、一回り、花瓶を隅々まで見てもらいました。
「割れとらん」
「よかったー。お母さんの大事な花瓶やもんね、ごめんね、不注意で」
私がそういう間に、無表情、無言のままの、
いつもの母の状態に戻ってしまいました。
さっきの、とっさに出たであろうタイムリーな声は、火事場の馬鹿力?
とにかく、最近母が見せていない素早い反応が現れたことが、
とても貴重に思われ、うれしくなりました。